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その日の晩。 俺は与えられた自室のベッドで横になって考え事をしていた。 あの後大聖堂に行ってきたわけだが、正直侵入者がいるのかどうかは確かに疑ってしまっても仕方がないように思う。 大聖堂と言うだけのことはあり、その空間はとても広くまた厳《おご》かな感じを漂わせていた。 高価そうなステンドグラスや聖歌を歌うための壇上があり、その壇上の中心には蝶の形を象った十字架が立っている。また大聖堂内は吹き抜けとなっていて２階と３階にテラスがあり、そこから大聖堂全体を見渡すことが可能になっている。 エミリアス最高司祭の話ではこの大聖堂内が２日に１回は荒らされているという。 大聖堂に向かう際エミリアス最高司祭からどこがどう荒らされているのかを聞いてみたが、大聖堂と呼ばれる空間ではなく、その空間とは別の部屋が荒らされているのだという。 曰く、無数に椅子がおいてある物置がめちゃくちゃになっていた。 曰く、テラスにおいてある石造が落とされていた。 曰く、戦いの神、エルマの絵画が見るも無残に破かれていた。 どれも実際にあったことだ。もちろんそれらの現場はすでに見てきた。椅子が置かれている物置はすでに直され、石造も片付けられているのでなんともいえないが、エルマの絵画とやらは見ることが出来た。 なんと形容していいかはわからないが、爪か何かで引っかいたような痕がたくさんついていたり、拳で殴って無理やり貫通させたような痕もあった。何のためにそんなことを？ 最もそんなことを考えることに意味はないが。 侵入者の発生は深夜１時から四時の間なのだそうだ。 侵入者の目的は不明。いや、一番最初でこそ怪しい人物を発見したがそのときは逃げられてしまった。 それ以降はエルマの騎士警備部の連中に誰にも気づかれずに荒らされているらしい。 だからこそ……疑心暗鬼が発生した。エルマの騎士達の目をすり抜け、大聖堂内の部屋を荒らす。 侵入者の姿が最初の１回目以降現れないとすれば、内部の人間がそういった犯行を行っていると言う考えが生まれるのも仕方がないことだろう。 確かにそんな状況ではエルマ神殿内部だけでこの事件を片付けるのは難しいだろう。互いの結束がゆるくなり、誰を信じていいのか、誰を疑うべきなのかがわからないのだから。 そして侵入者が存在すると考える派閥と、侵入者など存在せず内部に犯行を行った人間がいると言う派閥に分かれて抗争じみたことが起こっている。 抗争と言ってもお互いにピリピリした空気が流れていて、食事の際もその派閥で完全に分かれているとのことだ。 時には大仰な喧嘩にまで発展することもあると言う。 色んな意味で難しい状況だ。だが俺はこの依頼を最後まで遂行しなければならない。今後の生活費のためにも。 さて、どうやって対策を立てたものか……。 俺に出来る対策は今はまだ少ない。俺の目から見ればこのエルマ神殿内に存在する全ての人間の魔力を色で識別することが出来る。つまり人間ではないのならそいつが怪しいということにはなる。 だが、それだけだ。それがイコール侵入者ということにはならない。 だとしたら、実際に犯行が行われるであろう時間帯に大聖堂内で俺自身が見張りにつくしかない。 そうすれば実際に何が起こっているのかをリアルタイムで知ることが出来る。 犯行の時間は深夜一時から四時の間。 ならば、その間に起きて、俺自身も神殿内を巡回しよう。そのあたりの状況も分かれば今後の対策も立てやすいだろうからな。 そうと決まれば。 「さっさと寝よう」 夜中に歩き回るんだ。さっさと寝よう。今日俺が起こすべき行動。それは深夜の神殿内の巡回。犯行が発生する深夜一時から四時までの間は大聖堂内にいるべきだろう。 と、その時だった。 コンコンと誰かが俺の部屋の扉をノックした。 「レイちゃん。いる〜？」 その呼び方ですぐに分かる。火乃木だ。 「いるぞ。鍵は開いてるから入ってもいいぞ」 そういうと火乃木が扉を開けて入ってきた。ベッドから起き上がり火乃木を見る。その服装はさっきアーネスカに会ったときと同じ、法衣服だ。 「レイちゃん。もう食事の時間だよ？ 早く食堂に行かないとなくなっちゃうよ？」 「ああ、飯はいい。今日は食わん」 「え？ どうして？ 珍しいじゃない？」 「今日はもう寝る。今日の深夜。エルマの騎士達と一緒に俺も神殿内を巡回するためにな」 「今から寝て、眠くならないようにしておくっていうこと？」 「まあそういうことだ」 火乃木が心配そうな顔をして俺を見る。 「でも、やっぱりちゃんと食べたほうがいいよ。体力持たないよ」 「寝る前に食うのは胃に負担がかかるし、寝ている間も消化器官が働き続けるから疲れも取れない。だから何も食わなくていいんだ」 「……じゃあ、何時ごろに起きるの？」 「え？ そうだな……」 そう言えば起きる時間を決めてなかったな。軽い仮眠程度と考えていたから。 「何時に起きるのか教えてくれれば、起こしに行ってあげるよ」 それもそうだな……そうしてもらうのが一番いいかも……。 「じゃあ、11時頃に起こしてくれるか？」 「うん。わかったよ。あ、それと……」 「なんだ？」 「一応ね、ここにいる人たちのことを注意深く観察してみたんだけど……」 「うん」 「そしたらね。今日この部屋に案内してくれたライカさんって人がいるでしょう？」 「ああ」 「その人から……なんて言っていいのかな〜。人間なんだけど……人間じゃない臭いって言うか……なんかそんなのが感じた」 「ライカさんが？」 「うん。でもいまいちはっきりしない……。何か違和感というか……生臭さを感じたと言うか……ちょっと説明しずらいな〜」 「いや、無理に説明してくれなくてもいい。とにかくお前はライカさんに何かを感じたわけだな？」 「うん。まあそういうこと」 「わかった、ライカさんの動向には俺も注意するとしよう」 「うん。ごめんね。こんな情報しか集められなくて」 「何言ってる。小さな情報だって大切さ。ひょっとしたらその情報から事件解決に繋がる可能性だってあるんだから。お前はお前なりにやろうと思ったことを実行した。それでいいじゃないか」 「うん……ありがと」 火乃木の表情は複雑だった。悲しいような嬉しいようなどちらともとれない表情だ。 そんな顔するなよ……。俺らにシリアスは似合わねえだろう？ もっと気楽な顔しろよ。 「じゃあ、ボクもういくね」 「ああ」 火乃木が俺の部屋から出て行った。 俺はベッドに横になる。 火乃木の奴……辺に気を使わなくてもいいのに……。 俺らは普段からバカやってる方がお似合いだろう？ シリアスは似合わないってのに。 さっき思ったことを頭の中で繰り返しつつ、俺は立ち上がる。 とりあえず備えつけのシャワーで汗は流しておこう。これからしばらく使うであろう部屋のベッドを一日目から汗で汚したくはないからな。 「ん？」 寝ぼけ眼で俺は虚空を眺める。 眠い……いや、ここから無理にでも起きなければなるまい。どうせ二度寝なんか出来ないのだから。 「ふっ……ああ〜〜あ」 ベッドから起き上がって伸びをする。体の調子は至って順調。時間は今何時だろうか？ 壁につけられている魔光灯《まこうとう》のスイッチを入れる。すると部屋の内部が一気に明るくなった。 「うっ……」 まぶしい……。明かりに目が慣れていないせいだろう。だけど、時間を確認することは出来た。 10時58分。壁掛け時計の針はそう指し示していた。 少し早く起きちまったかな？ これなら火乃木に目覚まし頼んどく必要はなかったな。 もっともたかだか二分だ。大した差じゃない。 そんなことを思っていると誰かが俺の部屋の扉をノックしてきた。 そしてノックが終わってすぐに火乃木が扉を開けて入ってきた。 「ありゃ……レイちゃんもう起きてたんだ」 「ああ、悪いな。先に起きてたよ」 火乃木の格好は寝る前とは違い、下はパジャマだが、上は黒のノースリーブだ。そろそろ寝ようとしていたところなのだろう。 「ううん。別に悪くないよ。これからお仕事始まるんだよね？」 「まあな」 「ボクに手伝えること……ある？」 「大丈夫だ。ここからは俺の仕事だ。火乃木はしっかり健康の管理をしていてくれればいい」 「……」 まただ。また悲しいような嬉しいような微妙な表情。 だからそういう顔するなって。確かに遠まわしに手伝えることがないと言ったようなもんだけど、そんなに気にするようなことじゃないだろう？ 「その代わり、明日はお前にがんばってもらうんだからな？」 「……え？」 「明日は多分寝てるだろうからな。だからその分お前に働いてもらうのさ」 「あ、そっか」 「だから今日はもう早めに寝ておけ。いいな？」 「う、うん……。そうする」 火乃木は納得したようなしてないような微妙な表情をしながら退室した。 こう言うと自意識過剰みたいで正直嫌なのだが、火乃木は仕事となると常に俺の役に立てるかどうかを考える。自分が役に立たない存在に見えるのが嫌なのだと言っていた。 だからあいつは模索する。自分がなんのために役に立てるのかを。 だけど、俺はあいつはあいつらしく過ごしてくれればそれでいいと思う。 俺の役に立つか立たないかなんて考える必要はないと思う。 それなのに……なぁ〜。 まあいい。そんなこと考えていても侵入者を捕まえるという俺の目標は変わらない。今日で捕まえる事が出来ればこの仕事も終わるんだが、相手は何せエルマの騎士達の目を盗んで侵入を働いている賊だ。 そんな簡単にいくとは思えない。気を引き締めなければ。 俺は剣を腰に下げ、部屋を出た。 宿舎を抜け出し神殿へ向かう。 魔光灯の光で神殿内は薄暗く照らされている。人が歩ける程度の明かりでしかないが。 自分の足音が響くのが良く分かる。 だが、それだけ。まだ始めたばかりなのでなんともいえないが今のところ侵入者らしき気配は感じない。 そう思っていたときだった。 「おい！ そこの男！」 !? 「ここは男子禁制のエルマ神殿なるぞ！ 貴様まさか侵入者か！」 やけに強い口調でそういうのはエルマの騎士とされる女性であることに間違いはない。 俺は声をかけられたほうを振り向き、懐からアスクレーターライセンスを取り出した。 「俺はエミリアス最高司祭より依頼を受けたアスクレーター、鉄零児です」 「何？」 修道服に身を包んだエルマの騎士が俺に近寄りアスクレーターライセンスをまじまじと見る。 「アスクレーターであるなら、エミリアス最高司祭様のサインが入った依頼書を持っているはずだな？」 もちろんだ。アスクレーターとして仕事をする以上、依頼書は大切な預かりものだ。紛失したとあっては仕事が成立しない。魔術師ギルドはこの依頼が成功したかどうかの判断を依頼書の確認で済ませる。依頼書に依頼完遂の旨が記述されていればこれを魔術師ギルドに提出し、後日依頼主から報酬を受け取ることが出来るのだ。 だから依頼書は絶対に無くすわけにはいかない。 俺はエミリアス最高司祭のサインが入った依頼書を見せた。 「……なるほど、納得しました。突然の怒声をお許しください」 「いいえ、男子禁制のこの場所に男がいること自体中々問題だとは聞いていますし、こうなるんでないかとは思っていましたからね」 「そうですか。ですが、何故このような時間に神殿へ？」 「無論、昨今エルマ神殿内を騒がせている侵入者とやらを捕まえるためですよ」 「……」 目の前のエルマの騎士は沈黙する。そして数秒の後にポツリと言った。 「侵入者がいれば……ですけどね」 「それは……どう言う意味です？」 そんなことは考えるまでもない。この神殿に侵入者など存在しないといいたいのだ。 そして神殿内部の裏切り者が何らかの目的をもって動いている。目の前のエルマの騎士はそう考えているに違いない。 そうでなければ侵入者が存在しないであろうことを示唆《しさ》する台詞が口から出てくるわけがない。 「貴方も気づいているのではなくて？ エルマ神殿に侵入者など存在しないことを」 「俺はエルマの神殿で育ったわけではないので、その理由はわかりかねます」 「簡単な理由よ。このエルマの神殿には非常に強力な結界が張られている。ドーム状の眼に見えない強力な結界がね。もちろん侵入にはその結界を解除しなければならない」 「つまり、それは人間の力では簡単に解除することは出来ない。だから侵入者などありえない。そういいたいわけですか？」 「物分りが良くて助かるわ」 ……そんな単純な問題なのか？ 『人間なんだけど……人間じゃない臭いって言うか……なんかそんなのが感じた』 俺は火乃木の言葉を思い出す。 あの時火乃木が伝えたかったものが何なのかはよくわからないし、火乃木自身だって分かっていないだろう。 あいつの言葉を素直に受け取るならライカさんを疑ってかかるべきではあると思う。 「私は巡回中だからここいらで失礼しますよ」 「はい。お疲れ様です」 「そちらも無理をなさらずに」 エルマの騎士は一礼して去っていった。 俺は神殿内を再び歩き始める。歩いているだけで何か見つかるだろうか？ って見つかるわけねえって、俺が歩いているだけで何かを見つけられるなら、そもそもエルマ神殿が魔術師ギルドに依頼を出すこと自体してねえっつの。 だが、とりあえず一通り見ておくしかない。 それ以降は食堂やら会議室やら今の俺にいけるところいけないところ全部込みで神殿内を探索した。 鍵がかかっているところもあったので全てが見れたわけではないし、見れたとしても時間が足りない。だが、侵入者が現れる深夜一時までにある程度は見ることが出来た。 今のところ異常なしと判断してもいいだろう。 んで、残っているのが大聖堂だ。 時間は深夜一時を過ぎている。侵入者は現れたのだろうか。 大聖堂入り口の大きな扉の前には二人のエルマの騎士が立っていた。 まあそれくらいするわな。侵入者の侵入を二週間も許してしまっているのだ。そのためにがちがちに警備で固めているのだろう。 俺は彼女達に自分がアスクレーターでエミリアス最高司祭の依頼で動いていることを伝え、大聖堂内に入った。 大聖堂内の魔光灯は光を放っていない。そのかわりステンドグラスが月明かりを受け止め、聖堂内を照らしている。もちろんそれだけで聖堂内の全てが照らされているわけではない。 俺はステンドグラスを見上げた。と、同時に二階のテラスを歩く人物の姿が目に付いた。その人は、魔術師の杖を所持しており、杖の先端から放たれている光を頼りに歩いているようだ。 薄暗い中でその表情は見えないから、俺の知り合いかどうかはわからない。ただ、この時間帯にここに来ることが出来るということはエルマの騎士警備部の人間であることだけは確かだろう。 俺はその人物を黙って見ている。と、視線に気がついたのか、エルマの騎士はすぐにテラスから廊下（？）に戻り、階段を駆け下りて俺の元へとやってくる。 『あなたは……!?』 お互いの顔がはっきり見える位置に来て俺とエルマの騎士たる女性と俺は同時に声をあげた。 「く、鉄様……？」 「ライカさん……」 お互いにそう口に出す。メガネをかけた理知的な表情が困惑しているのが分かる。彼女の魔力は青。普通の人間と同じだ。つまり彼女自体は普通の人間ということになるわけだが。 「どうしてここに？」 ライカさんは意外だと言いたげな口調で俺に言う。 「俺は依頼で動いているだけです」 「賊を捕まえるためにここに来たと……そんなところですか？」 「まあ似たようなものです。そちらは巡回ですか？」 「ええ、その通りですわ。特にここ最近は大聖堂内の巡回を一時間ごとに人を入れ替えて行っています」 一時間ごとに毎回巡回してるってことか。 「やっぱり大聖堂内の巡回は強化されているんですね」 「ええ。普段なら夜に、一つのフロアを一人だけ回って終わりなんですが、最近はそうもいかなくなりまして……」 言うまでもなくエルマ神殿に侵入する何者かの仕業だな。 「いくつか聞いてもいいですか？」 この人が火乃木の言うとおり、人間ではない何かなのだとしたら。はたまたこのエルマ神殿の何かを狙う賊なのか。 それともまったくの無関係で火乃木の勘違いによるものなのかはわからない。 が、こうして二人きりでいる以上、探りを入れてみる価値はあるだろう 「私《わたくし》に答えることが出来ることでしたらなんなりと……」 ライカさんは俺の質問に快く返事をしてくれた。 「侵入者は深夜一時から深夜四時までの間に現れるんですよね？」 「ええ」 「何故そんなに犯行時間が一定していないのでしょう？」 「それは私ども全員が知りたいことです。何故これだけ侵入者の犯行時間にばらつきがあるのかはわかりません」 そりゃそうか……。 「じゃあ、侵入者は何が目的でこのエルマ神殿に侵入していると思いますか？」 「それも私達が聞きたいことです。私《わたくし》どもに侵入者の考えは掴めませんから……」 当たり前だ。だが、今俺が知りたいのはそんなことじゃない。 貴方が本当に信用に足る人物かを見極めたいだけだ。 『人間なんだけど……人間じゃない臭いって言うか……なんかそんなのが感じた』 火乃木の台詞が脳裏をよぎる。 人間は自分で知っている範囲のことを、言うべきでもないのに口を滑らせてしまうことというのが多々ある。それを期待したのだがライカさんはそういう隙を見せない。 「じゃあ、もう一つ」 「はい」 「この事件の犯人は人間だと思いますか？」 「え？」 ライカさんは一瞬言葉を詰まらせた。それは俺の質問の意味が分かりかねているからなのか、それとも図星で自分が犯人だからなのか。 「う〜んそう言えばそういった可能性は考えたことありませんね〜。鉄様はどう思ってらっしゃるのですか？］ 「俺ですか？」 質問に質問で返され、俺は少し考えるしぐさをしてすぐに返した。 「俺は……人間だけの仕業ではないと思います」 これは俺の本心だ。エルマ神殿そのものに張られた強力な結界。強化された警備網をたやすくすり抜け犯行を犯す謎の侵入者。 エルマの騎士とやらが無能でないならただの人間の侵入を許すはずがない。 「人間だけが起こす犯行にしては目的も不明。存在そのものを怪しむものさえ出ているこの状況で、それでも犯行は行われている。エルマの騎士が無能でない限り、そんなこと簡単に出来るとは思えません。そこには、必ず理由があると思うんです」 「それが、人間以外の何者かが絡んでいるとする根拠ですか？ 「そうです」 少なくとも、この人は無関係だと思う。個人的にだけど。それとも俺がただ単にそうあってほしいだけなのか……。 「わかりました」 「……？」 何が分かったというのだろうか？ 「今鉄様がおっしゃったこと、１度エミリアス最高司祭様に報告しておきましょう。そうすれば、侵入者への対策も見えてくるかもしれません」 そういうことか。 「そうですね。お願いします」 俺はライカさんに頭を下げた。 「顔をおあげください。そのように礼をされるほどのことは何もしておりません」 確かにそうかもしれない。 でもこの人にはそうするべきだと思ったからそうしたまでのことだ。 この人の目。とても理知的で優しそうな雰囲気を持つこの人の瞳にはエルマの騎士としてなのかはわからないが強い誇りを感じたからだ。 人間の目を見ればその人がうそをついているかどうかはある程度わかる。この人の目にはウソもごまかしも見えない。 もちろんそれだけでこの人が完全に潔白であるということにはならないが。これで全てが演技だとしたらとんだ狸だ……。 俺は顔を上げ、さっきとは違う質問をした 「今もこの大聖堂内を巡回しているわけですよね」 「ええ、その通りです」 「俺も行動を共にしてもいいですか？ ここで何が起こっているのか可能な限り見ておきたいんです。そうすれば今後俺のほうでも何らかの対策を立てられるかもしれませんから」 「お断りする理由は存在しません。鉄様、よろしくお願いします」 俺の提案を、ライカさんは母性溢れる暖かな笑顔で受け入れる。 それから俺はライカさんと行動をともにし、大聖堂内を巡回した。その時は荒らされた部屋はなし。実に平和だった。 一時間ごとに別のエルマの騎士が大聖堂に現れ、俺はそのたびに別のエルマの騎士と行動を共にした。それから三時間。すなわち深夜四時。いや早朝四時というべきか？ その日の結果は荒らされた形跡無し。つまり今回は侵入者は現れなかったことになる。 その理由が二日に一回現れるという侵入者が、たまたま現れない日だったからなのかは分からない。 「今回は何もなしか……」 俺は自室のベッドに横たわりつつ口にした。 とりあえず、深夜の巡回は継続する方向で俺は動こうと思う。 その上でどうやって対策を立てるかだ。 今は眠ってしまおう。とりあえず強烈に眠い。何せ目を覚ましてから六時間、ずっと歩きっぱなしだったのだから。 俺は遅すぎる就寝をむさぼるためにベッドの上で目を閉じた。 |
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